商店街を子育て世代が集まる場所へ。
世代や立場を超えてつながるまちづくり。

【熊本県天草市】
「ぼくらの街はみんなの遊園地」事業
事業実施主体:本渡中央商店街振興組合
本渡中央商店街振興組合の活性化に取り組む「天草AsovivAプロジェクト」のメンバー(左から山田忠男さん、高松聖司さん、嶋﨑健介さん)
熊本県の西側にある天草市。その中心部にある本渡中央商店街(通称「銀天街」)は、郊外型大型店の進出やネット通販の普及、若者の流出、少子高齢化などにより、利用客が大幅に減っていた。そこに追い討ちをかけたのが、新型コロナウイルス感染症の蔓延である。

商店街としての新たな価値創造が急務ととらえた本渡中央商店街振興組合は、Go To商店街事業を活用し、「ぼくらの街はみんなの遊園地」事業を実施。商店街全体を遊園地に見立て、地元子育てネットワークと連携した場づくりを行ったことで、子育て世代が多く訪れるようになった。その盛り上がりは、顧客の獲得にもつながりそうな勢いだ。本渡中央商店街振興組合副理事長の高松聖司さん、「天草AsovivAプロジェクト」代表の山田忠男さん、サポートスタッフの嶋﨑健介さんに話をうかがった。

背景・課題郊外型ショッピングセンターの進出や
消費ニーズの変化によって利用客が減少

天草市のある天草諸島は、熊本、長崎、鹿児島の3県に囲まれている。雲仙天草国立公園の一部でリアス式海岸や恐竜化石が出土した地層などを有し、農業や水産漁業などの一次産業が盛んな地域である。また近年は、「天草の﨑津集落」が「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産として世界遺産に登録され、話題を集めた。広葉樹のしげる森や、イルカやサンゴといった多様な生態系があり、自然を満喫する観光アクティビティの人気も高まっている。

天草市へのアクセスは航路と空路、そして陸路の3つがある。1966年に天草五橋が開通し、九州本土と島々が陸路でつながると、ドライブ観光やハネムーンのメッカとして多くの人が訪れる地となった。門前町に端を発し、天草島内唯一のアーケード商店街として整備された本渡中央商店街(全長約300m)にも島内外から人が集まり、「銀天街」という愛称で親しまれていた。ところが、1978年に都市間バスや路線バスが乗り入れするバスターミナルの移転により人流が変わり、次第に衰退の一途を辿ることとなる。

上:ダイナミックな自然景観と多様な生態系は、観光客から人気
下左:1966年に全線開通した天草五橋
下右:空のアクセスを実現させた天草空港。天草エアラインが運行する熊本、福岡方面からの直行便も

「アーケードができたばかりの1970年代が一番、賑やかでした。百貨店やスーパーだけでなく、肉屋や八百屋、魚屋といった毎日の食卓を支える店が立ち並び、文化人が集う喫茶店もある。休日には、家族で連れ立って歩くのを楽しみにするような場所だったんです」と話すのは、銀天街で生まれ育った高松聖司さんだ。

郊外型ショッピングセンターの進出や消費ニーズの変化にともなって利用客は減少し、シャッターを下ろしたままの店舗も増えた。危機感を覚えた同商店街では2018年、商店街の活性化ビジョンをつくる目的でアンケートを実施。高校生や老人会、子育て世代など多世代を対象としたニーズ調査でとくに顕著だったのが、子育て世代の商店街離れだった。

平日の本渡中央商店街(通称銀天街)。取り壊された店舗やシャッターを下ろした店も多い

「肌感覚はあったものの、あらためて数字で商店街離れを突き付けられると、ショックでした。しかも、対策を協議しはじめた矢先のコロナ禍です」と高松さん。だが、頭を抱えていたのは同商店街振興組合だけではなかった。

「本渡商工会議所の春の祭りや、『NPO法人 子育てネットワークわ・わ・わ』が主催する子育てフェスティバルも、開催の延期や中止に追い込まれていました。それぞれの団体が独自に模索を続けていましたが、あるとき、団体同士で話し合いの機会がありました」と説明するのは、市職員でもある嶋﨑健介さんだ。山田忠男さんがうなずきながら、こう続ける。

「室内イベントがダメでも、屋根付きの屋外空間でもある銀天街なら感染拡大リスクも下がる。それぞれの団体が予算を持ち寄って何かを始めてみようということになり、『ぼくらの街はみんなの遊園地』事業を申請しました」

左:2018年に行われた住民アンケートをもとに「本渡中央商店街(銀天街)活性化ビジョン」が策定された
右:事業を振り返る3人(高松さんが事業承継し、カフェと情報発信拠点となった「まるきん」にて)

取組内容子育て支援団体や有志と「天草AsovivAプロジェクト」を発足

「『ぼくらの街はみんなの遊園地』事業は、商店街を遊園地に見立てて、子育て世代の交流の場にするというものです。たとえば、イベント出店を通じて銀天街に価値を感じる人が増えれば、銀天街のもうひとつの課題である空き店舗の解消にもつながるかもしれません。そのため、たとえ規模は小さくとも、毎月取り組みを継続することを決めました」と山田さんは話す。

そして、本事業の運営母体として、「本渡中央商店街振興組合」、「本渡商工会議所」、「NPO法人 子育てネットワークわ・わ・わ」の3者と市の産業政策課や市会議員、その他有志により「天草AsovivAプロジェクト」を発足。自主財源事業として継続させるという意気込みから、Go To 商店街事業の支援金を利用する2020年12月のイベントは、プレ開催の「0回目」と位置づけた。

「0回目」の開催に向けて、「遊園地らしさ」を出すために、地元産木材でつくられた木製遊具を設置。そして迎えた当日は、「移動動物園」や市の水産振興課による「天草に生息する魚のタッチプール」、イラストレーターとともに描く「空き店舗シャッターお絵描き」のほか、「お仕事なりきりフォト体験」などを開催。1日で約2,800人の親子が参加した。

「コロナ禍だったので、新聞折り込みでエリアを限定した告知を行いました。以降は、近隣の保育園や幼稚園にチラシを配布。とくに来街していただきたい層をピンポイントで集める工夫をしています」と山田さんは話す。

左:新聞折り込みとして配布した初回のチラシ
右:親子で楽しむワークショップ
地元産木材でつくられた木製遊具は、子どもたちに大人気

ママ目線の商店街マップを作成。
地元の高校と連携し、地域活性の取り組みも

魅力的なイベントを次々と行う一方で、「天草AsovivAプロジェクト」では、子育て世代にやさしい商店街をアピールするため、ママ目線の商店街マップを作成。さらに、近隣にある「天草高校」「天草工業高校」「天草拓心高校」に声をかけ、高校生ボランティアも募集した。その狙いについて、高松さんは次のように話す。

「若い子たちに、まちを知ってもらうことが目的です。天草の高校生の多くは、進学や就職を機に島を出ます。その前に商店街の取り組みに関わってもらうことで、帰る場所や目標をつくりたかった。初回は100人近くの高校生がボランティアとして参加し、いまでは毎回、募集人数を遥かに上回る希望者が集まります」

左:子育て支援団体の協力でママ目線で楽しむ商店街マップを作成
右:初回からたくさんの高校生ボランティアが参加した

「ワークショップをしたい」「ママたちの休憩場所がないから、ベンチをつくりたい」など、高校生からさまざまなアイデアも出る。そのアイデアを実現しようと、天草森林組合や県をはじめ各所に協力を仰ぎ、地域を巻き込んだ取り組みになりつつある。

こうした状況について、「学校で栽培した花苗や地元企業とのコラボ品を販売して活動費を捻出するなど、生徒たちに頼もしさも感じる」と山田さんは話す。たとえば、天草工業高校は銀天街の空き店舗を借り、各学科の学びを生かしたワークショップや販売会を実施。空き店舗の上に家主が居住しているという形が多く、店舗の貸し出しに積極的でないケースも多かったが、「地元の高校が店舗を借りる」ということにオーナーが賛同してくれ実現となった。さらに、3つの高校が協力してイベントを盛り上げるプロジェクトがスタート。2021年度は3校がタッグを組み、地域の課題や活性化に取り組むことになった。

左:3つの高校が協力し活用をはじめた、空き店舗。ワークショップや販売会も
右:学校で育てた花苗の販売には親子で楽しめる工夫が満載

将来の構想まちの新たな可能性を探り、日常的な賑わいを取り戻す

「ゴールは、日常的な賑わいをつくること」と嶋﨑さん。そして、高松さんはこう続ける。

「継続は力なり。中止にすることは簡単ですが、一度中止してしまうとお客さんの足が遠のく恐れがあるので、小規模でも継続的に取り組みを続けていきたい。なるべく経費を抑え、年に1回ぐらいは、目玉となるような大規模イベントもやりたいですね。そんなことを繰り返しながら子どもたちが戻れる場所をつくるのが、僕らのやるべきことだと考えています」

その言葉通り、コロナ禍で延期を余儀なくされた際も、商店街の一角に芝生を敷いて遊具を設置するなど、子どもを楽しませる工夫を惜しまなかった。こうした取り組みが徐々に認知されるようになり、商店街や高校生、子育て世代の間ではいつしか、「まちはみんなの遊園地」「Asoviva(あそびば)」という呼び名が定着しつつある。

上:商店街を面としてとらえ、開催される「まちはみんなの遊園地」。いつしか親子でいっぱいのイベントに
中:市の水産振興課による「お魚ふれあいコーナー」は特に人気のコンテンツ
下:ワークショップや体験など趣向を凝らした内容で、来場者の年齢構成も多様に

今後は「天草AsovivAプロジェクト」をNPO法人化し、家守(やもり)会社として、空き店舗を使ったまちづくりにも取り組む。さらに、製造販売業や飲食店の期間限定ショップやクリエイターとコラボしたイベントなど、世代や立場を超えた取り組みに広げていく。さらに、銀天街を飛び出し、天草の各所で出張マーケットや出張遊園地を行うという構想もある。「復活ではなく、創生。商店街という枠を超え、まちを再生していく感覚です」高松さんと山田さんは声を揃える。

Go To 商店街事業をきっかけに見えてきた、“まち”の新たな可能性。世代や立場を超えてつながる“まち”の挑戦は、これからも続いていく。

左:全天候型の遊び場として認知度が高まり、周辺の店舗でランチを楽しむケースも増えている
右:地元の飲食店や生産者らが集まるマーケットを楽しみに訪れる人も多い
まとめコメント
  • 事前のアンケート調査によって、商店街離れを起こしていた子育て世代のニーズが顕在化。ターゲットを子育て世代に設定し、「価格」「品揃え」「駐車場」についての満足度を高めることが商店街の課題であると定めた。
  • 子育て支援NPOや、商工会議所、高校生、飲食ブースの運営に協力してくれる近隣の旅館や臨時駐車場の提供をしてくれる病院や店舗など、地域内での連携が生まれた。
  • コロナ禍で飲食を提供できない回もあったがその分、周辺の飲食店への回遊性が生まれ、イベント以外の来店が増えるなど新規顧客獲得につながった。
  • 運営のための高校生ボランティア募集がきっかけで、地元の3つの高校との連携が深まり、各校がそれぞれにステージイベントやショップを展開することもあった。
  • 空き店舗の課題に対して、「天草AsovivAプロジェクト」が会社組織をつくって店舗を借り上げ、信頼関係のある者へ貸し出すことで、空き店舗を上手く活用する仕組みを検討しはじめている。
  • まちづくりへのチャレンジなど、商店街という枠組みを超えた可能性が見えた。
データ
事業者名 本渡中央商店街振興組合
所在地 熊本県天草市
商店街の類型 地域型商店街
組合員数 55名
主な業種構成 飲食、食品製造・加工・販売、青果、生肉、衣料、呉服など
電話 0969-23-2213
URL http://asoviva.amakusa-web.jp
https://www.instagram.com/amakusaasoviva/
 
天草市 人口:79,694人 世帯数:36,915世帯 出典:住民基本台帳(令和3年4月末日)