自生するカエデを新たな地域資源に。
メープルシロップ製造体験イベントを開催

【栃木県日光市】
メープルシロップ採取体験イベントなどによる
日光観光事業者活性化事業
事業実施主体:日光メープルの森づくり
日光メープルの森づくり事務局の山本仁一郎さん
「日光東照宮」で知られる栃木県日光市は、国内屈指の観光地である。地域経済の基盤となっているのは、年間1,200万人の観光客だ。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大で観光客が激減。多くの事業者が苦境に立たされることになった。
そこで、同市で森林保全の活動を行っている団体「日光メープルの森づくり」は、以前から取り組んでいる、日光で自生するカエデを活用した「メープルシロップ製造の体験イベント」で賑わいを創出することを考案。森林保全活動と観光客誘致の両方の活性化につながる同団体の取り組みについて、発案者である山本仁一郎さんにお話をうかがった。

背景・課題新型コロナウイルスの影響で観光客数が約350万人減少

歴史的建造物が数多く残る栃木県日光市は、日本有数の観光地である。有名な「日光東照宮」は、近隣の「輪王寺」「日光二荒山神社」とともに「日光の社寺」として世界遺産にも登録されている。さらに「華厳の滝」や「中禅寺湖」「男体山」など、自然の魅力あふれる観光スポットも多数存在。都心からのアクセスの良さも手伝って、近年はインバウンドも増加。国内外から年間1,200万人もの観光客が訪れるようになった。

「日光メープルの森づくり」は、地元の観光事業者が集まって2017年に発足。メンバーのひとりである山本仁一郎さんも観光業を営みながら、かき氷などに使われる天然氷の製造を行っている。

「日光には、カナダのサトウカエデと同属の木がたくさん自生しています。日光メープルの森づくりでは、それに着目。もともと私は森林保全活動のかたわら、観光資源づくりの一環として、2013年から樹液を採取してメープルシロップ製造に取り組んでいました」

それから7年。ようやくメープルシロップの商品化の目途がついた矢先、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、日光を訪れる観光客が激減した。緊急事態宣言が発令された2020年4月は前年比で約60%減、翌5月は約70%減と大幅に落ち込んだ。年間の観光客数でいえば約834万人と、2019年の約1,181万人から約350万人も減ったことになる。

このあおりを受けて、山本さんを含む地域の観光事業者は一気に経営が悪化。「先が見えず、資金不足はもちろん、観光資源である森林の管理も滞り、森の価値も下がるという最悪の循環が見えていました」と山本さんは振り返る。

そこで山本さんは、これまで取り組んできたメープルシロップ製造そのものを、観光客誘致に役立てることを考案。「メープルシロップ採取体験イベントなどによる日光観光事業者活性化事業」と題して企画書をつくり、Go To 商店街事業に申請した。

「日光メープルの森づくり」は、日光東照宮から車で約10分の所野地区で主に活動。霧降高原をはじめ、約800ヘクタールの森を管理している

取組内容メープルシロップ採取体験イベントを企画

メープルシロップづくりのための樹液採取は、日光では毎年、2月から3月にかけて行われる。山本さんはその時期に合わせ、①樹液の採取 ②メープルシロップの製造 ③メープルシロップの試食、という3部構成で体験イベントを企画。

本番開始に向けて2020年11月に実施したモニターイベントには、観光業でつながりのあった在日外国人や飲食関係者のほかに、地元の企業や大学にもお声がけをしたという。参加者からは「樹液の採取やメープルシロップづくりなど、初めての体験ができた」「冬の森の中という特別なシチュエーションで食事できて楽しかった」と好評だった。
「驚いたのは、『雪が積もる森のなかでの移動がアトラクションみたいで楽しかった」という参加者がいたことです。自分たちにとっては日常的なものでも、工夫次第で価値あるものに変えて、観光客の方々に提供できるのではないかと思いました」

2020年11月に実施したモニターイベントの様子。幹に穴を開け樹液を集める
採取した樹液はほんのり甘い。(右)採取した樹液を4日ほど煮詰めることでメープルシロップができあがる

残念ながら、イベントの本開催は、新型コロナウイルスの感染状況の悪化にともない中止となってしまった。しかし感染対策を徹底し、「冬の魅力的なイベント」として今後展開していく予定だ。

「例年、冬季は観光客が減少します。とくに冬の森でアクティビティを楽しむ観光客はほとんどいません。メープルシロップ採取体験を軌道に乗せて、“冬の森”も観光資源として役立てていきたいと思います」

メープルシロップを使った特産品を開発

一方で、長年の取り組みが実を結び、メープルシロップの商品化には成功した。2020年11月に「日光メープル」の名で、県内のホテルなどに卸し始めた。まだ生産量が少なく、市場には流通できていないが、今後、生産量を増やして一般販売をめざすという。

「日光メープル」(1本60g入り)。2020年に完成した160本はすぐに売り切れた

「日光メープル」は、同団体が管理する約800ヘクタールの森に自生するイタヤカエデの樹液を使用。採取量は、年間約3トン。それを40分の1の量になるまで4日ほど煮詰めることで、優しい甘さが特徴のメープルシロップができあがる。

「パンケーキにかけるだけでなく、ウイスキーや紅茶に入れるのもおすすめです。樹液の採集は人力で行わなければならず、正直、製造にはものすごく手間がかかります。でも、苦労の甲斐あって、多くの人においしいと言ってもらえる商品になったと思います」

メープルシロップを使った新商品の開発も進んでいる。すでに、地元の特産品である山椒(さんしょう)や日光とうがらしとかけ合わせた「日光コーラ」や「メープルそば」の試作品ができており、現在、地元の商店などで試験販売中。完成後は、ネット販売も予定している。

試作品の「日光コーラ」は、炭酸水で割って飲むタイプ

将来の構想「メープルの森」を日光のブランディングに活用

現在は、来季のメープルシロップ採取体験イベント実施の準備を進めている。樹液を豊富に出しそうなカエデ約100本に、すでにマーキングしているという。

「日によっては、樹液が出ないこともあります。でもそれは、自然が相手だからしょうがない。樹液が出なくても楽しんでもらえるように、冬の森ならではのアクティビティを考案中です。イベントをきっかけに、森に興味を持ってくれる人が増えてくれればうれしいですね」

また、今回のプレイベントでつながった地元の企業や大学との新たな展開も生まれているという。目下、「草刈り」などを一緒に行い、森を一緒に管理してという話が持ち上がっている。さらに、この森の管理活動自体をイベント化するという構想もある。紅葉などの観光資源である日光の森で体験型のアクティビティを提供にして、さらに魅力的なものにしていく。

「今回企画したメープルシロップ採集体験イベントを、ほかの事業者や団体にも展開してもらいたいですね。希望する事業者の方々には、森との付き合い方やメープルシロップの作り方も教えます。ぜひ一緒に日光の森を守っていきましょう」

人の手が入らなくなった森は、どんどん荒れていく。森林保全という観点からも、同団体が行うイベントには大きな意味がある。そして「日光メープルの森」のブランディングに成功すれば、商品開発や宿泊施設の開設、キャラクターグッズの誕生など、さまざまなビジネス展開が可能になるかもしれない。コロナ禍をバネに、体験型のアクティビティという日光の新たな観光の目玉が、森から生まれつつある。

まとめコメント
  • 日光に多く自生しているカエデに着目し、地域産品として「メープルシロップ」を開発。その一方でコロナ禍により日光市の観光客は激減。観光客を呼び込むためにメープルシロップ製造のノウハウを生かして、「採取、製造、食す」の体験型イベントを企画した。
  • メープルシロップを使った新商品も開発。地元の特産品である山椒(さんしょう)や日光とうがらしとかけ合わせた「日光コーラ」や「メープルそば」などが誕生した
  • プレイベントに参加した地元の企業や大学などと一緒に、森を管理していく話が持ち上がっている。森の管理そのものをアクティビティ化して、あらたな観光資源として活用する。
  • 今後の目標は、森林の管理体験イベントのノウハウや仕組みをほかの事業主と共有すること。地域全体で日光の森をブランディングすることにより、さらなる観光客の増加をめざす。
データ
事業者名 日光メープルの森づくり
所在地 栃木県日光市所野
会員数 12店舗
主な業種構成 飲食、宿泊施設、サービス業
電話 0288-53-2877
 
日光市 人口:38,793人 世帯数:36,581世帯 出典:住民基本台帳(令和3年8月1日)