安心を届け、潜在的な需要も
掘り起こしたデリバリーシステム

【北海道空知郡南富良野町】
なんぷデリバリーシステム構築事業
事業実施主体:南富良野町商工会
南富良野町商工会のみなさん(左から増田さん、奥田さん、補助員天上さん、局長安部さん)
北海道のほぼ中央に位置する南富良野町。新型コロナウイルスの影響によって、町内の飲食店や小売店では地元客の減少、タクシー会社では観光客の減少がみられた。これを受けて南富良野町商工会では、町内の事業所が連携して行う「なんぷデリバリーシステム」事業を実施。

料理や商品を安心・安全な形で提供できるこの取り組みによって、これまで実店舗の利用がなかった施設入居者などの顧客獲得にも成功。事業の終了後もテイクアウト販売を始めるなど、店舗側の新しい挑戦にもつながっている。南富良野町商工会の経営指導員である樋村裕之さん、補助員の天上陽人さんにお話を伺った。

背景・課題コロナの影響で飲食店は売り上げ約3割減

南富良野町は、高倉健が主演した映画「鉄道員(ぽっぽや)」のロケ地や、カーリングのオリンピック選手を輩出しているまちとして知られている。ニンジン、ジャガイモ、米などの農業や、林業、医療・福祉業を中心に、「かなやま湖」でのキャンプや冬のワカサギ釣り、空知川でのラフティングやイトウ釣りなど、豊かな自然を生かした体験型観光も盛んだ。


大型リゾート施設に近いことから、修学旅行生の団体など南富良野町を訪れる観光客も多かったのだが、2020年のコロナ渦により激減。リゾートへの送迎やツアーを行っていたタクシー会社、FMT TRAFFIC TAXI(有)は売り上げゼロの日もあるなど大打撃を受けた。
地元客が多かった町内の飲食店も、同年秋からの新型コロナ感染者の増加によって客足が大幅にダウン。年末年始の宴会もキャンセルされたことで、売り上げは約3割減となった。


「町民から『料理の出前があればいいのに』といった声が、よく聞かれました。店舗側が対策をしていても、コロナ感染の不安を持つ人や、職場から『なるべく外出をしないように』と言われている人も多い。一方で、店側は個人経営が多いため、店舗を開けておきながら配達をするのは難しいという実情があります。そこで、国が認めるようになった『出前タクシー』をわが町でも導入できないかと考え、『なんぷデリバリーシステム構築事業』を申請したのです」と樋村さん。

右:南富良野町商工会 経営指導員 樋村裕之さん 左:同 補助員 天上陽人さん
映画「鉄道員」のセット(幾寅駅のわき)

取組内容店舗とタクシー会社、商工会で配達システムを構築

「なんぷデリバリーシステム」は、「飲食店デリバリーメニュー」と「商工会お届けサービス」の二本柱で実施。

「飲食店デリバリーメニュー」には、商工会の呼びかけに応じて食堂、レストラン、居酒屋など8店舗が参加した。町民がチラシにあるメニューを選び飲食店に電話で注文、飲食店は商工会に内容を報告し、商工会からタクシー会社に配達依頼を行う。タクシーは町民への配達とメニュー代金の受け取りを行い、店舗に支払う仕組みだ。

「商工会お届けサービス」は、スーパーや小売店6店舗が参加。町民が店で米や飲料、酒などの商品を購入する際に申し出れば、同じく商工会を通してタクシー会社が配達してくれるシステムになっている。

参加店から荷物を受け取る運転手
左:参加店店内に貼られたポスター 右:デリバリーの参加店とメニュー

「町の人口の半数以上が65歳以上の高齢者なので、飲食店デリバリーのほかに、米や酒をタクシーが届ける商工会サービスも企画しました。住宅や店舗は町の中心である幾寅地区に集まっていますが、ほかにも5つの集落があります。配達エリアを町内全域とすることで、これまで直接店に来られなかった遠方の住民にも知ってもらう良い契機になると考えました」と樋村さん。タクシー会社のFMT TRAFFIC TAXI(有)には、商工会から1日単位で一律の料金が支払われた。

「参加する飲食店にはデリバリー専用のメニューを作ってもらいました。例えば焼肉屋さんは牛サガリ丼やオードブル、居酒屋さんはカレーライス弁当やまぐろ漬け丼など、車で運びやすくお客さんが食べやすいメニューですね。商工会でメニューの写真が入った掲載店のデリバリーチラシを作成し、回覧板で町内の全戸に配布しました」と樋村さん。

参加店とタクシー会社には、のぼり旗とGo To 商店街事業のポスター、さらにコロナ対策として自動アルコールディスペンサー、アルコール、紙マスクを配布。マスクの着用とこまめなアルコール消毒を徹底してもらい、人同士の接触を最小限に抑えることで町民の安心感を得られるようにした。同時に、新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」のインストールも参加者が行い、町民配布用のチラシにも「COCOA」の案内を掲載した。

売り上げ増で参加店も新たなチャレンジ

「なんぷデリバリーシステム」の運用に当たって、商工会では担当者を1名、期間臨時職員として採用。電話受付や連絡のほか、商工会のホームページに「デリバリーメニューのご紹介」として、各店のメニューを食べた感想を魅力的に紹介した。実施期間は2020年11月24日から翌年2月14日の年末年始を除く65日間で、町民からの注文数は合計568件。参加店の売上高は約10%アップした。

事業に参加した「居酒屋あぶり屋」のご主人はこう話す。「考えられる限りの感染予防対策はしていましたが、コロナの影響で売り上げは半減。お客さんは農業・林業の方が多く、冬場は農閑期でお店の稼ぎ時だったところ、年末年始の宴会もすべてキャンセル。『配達してくれないか』という声も多かったのですが、自分たちだけでは手が回らない。そこに、デリバリーシステムの話があったので、すぐに参加しました」

あぶり屋ではデリバリー用に惣菜メニューを揃えたほか、水曜日限定で、のりから弁当、カレーライス弁当、まぐろ漬け丼をリーズナブルな値段で用意。毎週注文するお客さんもいたという。「コロナもいつ終息するか分からない。店としてもできる範囲で努力しようと、いまはテイクアウトも始めました」と意欲を見せる。

参加店「居酒屋あぶり屋」の店内とご主人
左:「居酒屋あぶり屋」の店内に設置された自動アルコールディスペンサーとマスク用ポリ袋
右:参加店のよしみ食堂(奥)、レストランなんぷ亭(手前・旅籠やなんぷてい併設)

将来の構想集客力向上、潜在的な客層も掘り起こす

デリバリー事業終了後に行った町民アンケートでは、回答した122人のうち85%がデリバリーシステムを利用、うち98%が「今後もデリバリーを利用したい」という結果を得た。

「デリバリー事業を通じて分かったのは、地元にはまだまだ潜在的なニーズがあったということです。特に、老人ホームや福祉施設など、普段から外に出たくても出られない居住者や職員の方の注文が多くありました。今後も、何らかの形で売上につなげていけるのではと考えています」と樋村さん。

普段は店を利用しない高齢者や、遠方の地区からの注文があるなど、今回のデリバリー事業における集客力の向上に伴って、「居酒屋あぶり屋」のようにテイクアウトをはじめる店や、デリバリーを検討する店も出てきた。

アンケートの意見にあった「コロナ渦の日々が続く中で、飲食店の味を家庭でも味わえることは安心で便利だと思います」という声にこたえるべく、店側の意識の変化を商工会はサポートしていく。

特産品、バタじゃが、ポテトチップス「ふらのッち」など
まとめコメント
  • 新たなデリバリーシステムを構築したことにより、65日の期間で町民からの注文数は合計568件あり、参加店の売上高は約10%アップ。飲食業と運送業という異業種が組むことで、新しい需要を生み出せるという気づきが得られた。
  • 居酒屋によるランチなど、自店の新しい商品開発等により、さらに想定以外の顧客の発見の機会につながった。また、デリバリーをきっかけにテイクアウトを始めた店舗もあった。
  • 老人施設や福祉施設の職員と入居者、単独で外出できない高齢者などからの需要もあり、買い物困難者への社会課題解決にも貢献している。
  • 事業後の町民アンケートでは回答者122人中、85%がデリバリーを利用し、うち98%が継続を望むという回答が得られ、持続的なサービスとしての可能性が見えた。
データ
事業者名 南富良野町商工会
所在地 北海道空知郡南富良野町
商店街の類型 地域型商店街
組合員数 110名
主な業種構成 酒、食品加工、青果、文具、書籍、玩具、呉服、燃料など
電話 0167-52-2605
URL https://r.goope.jp/nanpushokokai
 
南富良野町 人口:2,360人 世帯数:1,322世帯 出典:住民基本台帳(令和3年4月末日)