「買い物弱者」と商店街をつなぐ、
ご用聞きとお届けのシステムを構築

【静岡県富士宮市】
富士宮いいじゃん〜ご用聞きとお届け〜
新しい生活様式に合わせた商店街と生活者の新しいコミュニケーションづくり事業
事業実施主体:富士宮駅前通り商店街振興組合
左から富士宮駅前通り商店街振興組合理事長の増田恭子さん、田島孝之さん、京極敬二さん、佐野秀明さん・宏子さん
富士宮市にある6つの商店街は、2014年から行政機関などと協働で「出張商店街」や商店街へ買い物客を送迎するバスツアーを開催。高齢者が多く公共交通機関がない地域の「買い物弱者」支援を行ってきた。

しかし2020年、コロナ禍で多くの人を集めることができなくなった。そのため、個別に注文を受け配達する「富士宮いいじゃん〜ご用聞きとお届け〜」事業を企画。Go To 商店街事業の採択を受け、2021年3月より受注・配達を開始した。事業を立案した富士宮駅前通り商店街振興組合理事長の増田恭子さんにお話をうかがった。
富士宮駅前通り商店街は、JR富士宮駅からまっすぐ200mほど続く。最盛期は45件ほどが軒を連ねていた

背景・課題コロナ禍により高齢者を中心に「買い物弱者」が増加

世界文化遺産「富士山」を間近に望む富士宮市。主要な観光スポット「富士山本宮浅間大社」の周辺には6つの商店街が集中しているが、おみやげを中心とする観光型の商店街ではなく、地域住民の日常を支える商店がほとんどである。

近年、商店街への客足が遠のくなか、同商店街振興組合は2014年から富士宮市や同市社会福祉協議会などと協働で、商店がない地域へ出向くマルシェスタイルの「出張商店街」を開催。高齢者を中心に好評を博していたが、2020年3月以降、コロナ禍により人が集まるイベントは軒並み中止を余儀なくされた。

「『出張いたします!』『どうぞ、お出かけください!』という動きがコロナのために制限されてしまったんです。それでも買い物弱者の救済のため、また、売上げが落ち込む商店街のために、従来のイベントに替わる消費喚起の必要性は強く感じていました」と増田さんは話す。

そこで、人を集められないのなら個別に対応しようと思いついたのが、商店と生活者のコミュニケーションが図れる買い物代行サービス、つまり昔ながらの「ご用聞きとお届け」のスタイルだった。

「出張商店街」を行うなかで築かれた市内各商店街との連携もあり、当初、企画はスムーズに進んだ。しかしそのなかで、配達スタッフや車両の確保、利用促進PRのための資金不足が問題に。そこで、Go To 商店街事業へ「富士宮いいじゃん〜ご用聞きとお届け〜」事業を申請し、採択で得た支援金を活用することにした。

取組内容商店街の商品を個別に届ける買い物代行サービスを開始

買い物代行サービスを始めるにあたって、まず増田さんたちは、各地域の世話役たちにその必要性をヒアリングした。そして、そのなかから特に重点的に告知、配達を行う2つのモデル地区を選定。

ひとつは、市の中心地には近いが、公共交通機関と日常使いのスーパーマーケットがない山本地区。もうひとつは、40年ほど前の分譲地で、現在約500世帯が暮らすにも関わらず商店がない青木平地区である。この選定について、増田さんは次のように話す。

「山本地区は隣接する富士市との中間地点、青木平地区は車社会の発展とともに駅から離れた場所に開発された住宅地。どちらも山間の過疎地ではないのですが、車がないと買い物が大変な地域です。今後、事業継続の参考にするためにも、高齢者だけでなくいろいろな世代の人の要望を取り上げられるように、この2つの地域に絞りました」

配達を担当する京極さんは、モデル地区となった山本地区に暮らす。商店がないだけでなく、地区を通る道路も狭いため、高齢者にとっては車の運転も徒歩での移動も危険が伴うという

その一方で、ネットショッピングに不慣れな高齢者のため、各商店のおすすめ商品を掲載したパンフレットを制作。総数は12,000部。2021年3月1日から配布をはじめ、2つのモデル地区には自治会を通じて全戸配布した。また、2021年4月から一部再開した「出張商店街」でも配布し、利用促進のためのPRを行っている。

商店を頼りにしてほしいという願いから、手づくり感を大切にした温かみのあるパンフレット

商品カタログとネットショップで受注し、週1回配達

パンフレットの配布当日から、サービスを開始。2021年7月9日までに12件の受注・配達を行った。商品の配達日は毎週火曜日。電話、FAX、インターネットで注文を取りまとめる。配達料は100円だが、購入代金3,000円以上の場合は無料になる。これまでに配達された主な商品は、食品、生鮮品、菓子、下着や靴などの日常に必要な品々である。

「パンフレットは、文字を大きくし商品写真を掲載するなど、高齢者の見やすさを優先しました。利用者からは『コロッケが載っているお肉屋さんはトンカツもおいしいから一緒に配達して』という注文もありました。利用者さんのほうが商品のことをよく知っていますね」

こう話すのは、電話での注文を取りまとめる事務局の中野仁美さん。「ネットショップとは違って、対面でコミュニケーションをとれるのが『ご用聞きとお届け』ならではの魅力」と、中野さんは語る。

「靴やスリッパのご注文をいただいたときは、サイズだけでなく好みのデザインや色もうかがいます。そのうえで、試着できるように数種類をお持ちして、その場で選んでもらうんです。買い物を楽しんでほしいですね」

左:実際に注文を受け配達された品々。生活に身近な日用品や総菜などが中心
右:お届けに同行し、利用者からの意見を直接うかがう事務局の中野さん(右)

配達を担当するのは、佐野秀明さん・宏子さん夫妻と京極敬二さん。佐野さん夫妻は、秀明さんの定年退職後から14年間、市民活動やボランティアに従事しており、「出張商店街」にも参加している。京極さんは、富士宮駅前通り商店街に隣接する商店街で家具屋を営み、同商店街組合の会長を務めた経験もある。

3人は配送日の前日に連絡を受けて、担当の地区を回る。地域や商店街に詳しい人たちがお客さんのもとに出向くことで、コミュニケーションも円滑になり、地域との繋がりが強化されていく。

「足の不自由な山間の高齢者の元にもお届けに行きました。お米などの重いもの、トイレットペーパーなどのかさばるものを配達してもらいたいという具体的な要望があり、今後、山間部でも事業として広がるのではないかと感じています」と宏子さん。

左から佐野さん夫妻、京極さん

現在、利用者は60代後半以上の夫婦が多い。「車がないから」「コロナの感染が怖いから」と、気軽に出掛けられない人たちが大半である。利用者からは「商店街を巡り、必要なものを買い揃えるのと同じ感覚で注文できて便利」という声も届いている。増田さんは、「受注システムがより円滑に回るようになったら、新規参加を希望する店舗も受け付けていく」という。

「お客さんは、もともと商店街に買い物に来ていた方々です。店も商品もよく知っている。パンフレットに載っていないお店の商品でも、なるべく希望を聞いて一緒に届けるようにしています。『ご用聞き』のサービスですから、ショッピングセンター内のファストフードや配達エリア外の宅配ピザなども遠慮せずに注文してほしいですね」

富士山本宮浅間大社とその門前にある宮町商店街からも参加店舗が。観光客に人気のお宮横町は鳥居の目の前にある

将来の構想ネットショップの活性化と商店街への送迎で利用促進を図る

同商店街振興組合では、ネットショップも立ち上げた。開発の先頭に立ったのは、商店街でパソコン全般のサポート事業を行う田島孝之さんである。今後はこのネットショップの充実と利用普及のための啓蒙活動にも力を入れていく。

ネットショップは、店ごとにカテゴライズするレイアウトを採用。田島さんは「イメージは総合百貨店」と説明する。

「もちろん商品一覧や検索機能もありますが、トップページに商店一覧を掲載することで、今まで通い慣れている店がすぐに見つかるようにしています。今後はタブレット操作の講習会なども開催し、利用者の意見も聞きながらより注文しやすい環境を整えていきたいですね」

地域の世話役の人にインターネットに慣れてもらい、その世話役のサポートの元で高齢者が注文できるような仕組もつくる予定だ。

ネットショップのトップページ。サイドバーに商店が一覧で並ぶ

Go To 商店街事業の申請時には、遠方地域から買い物客を運ぶバスツアーや少人数の地域ではタクシーでの送迎を行い、商店街に来てもらうという計画も含まれていた。しかし、バスツアーは密になりがちなため、現状ではまだ実施の判断が難しい。今後、感染状況を見ながらバス会社と調整をはかって進めていく。一方タクシーによる送迎は、市内のタクシー会社に働きかけ早期の実施をめざしている。

また、既存の「出張商店街」も地域の要望を受けながら少しずつ再開している。しかし、2021年は前年の半分以下の開催に留まる見込みだ。

今回の「富士宮いいじゃん〜ご用聞きとお届け〜」事業は、コロナ禍がきっかけとなってスタートしたが、今後コロナが終息したとしても、過疎化が進む限り「買い物弱者」は増え続ける。そうした人たちの暮らしをサポートするために、小規模ゆえの機動力を強みに多方面から取り組みを進めていく。そして、「この活動を商店街の活性化につなげたい。利用者だけでなく、商店主もハッピーにするのが目標」と増田さんは目を輝かせる。

まとめコメント
  • 商店街まで足を運べない高齢者や単身世帯など、コロナ禍の「買い物弱者」を救済。高齢者が利用しやすいようパンフレットを作成し、配布した。
  • 商店、商品を知っている人からは、パンフレットに掲載がない商品の注文も入る。種類やサイズがいくつかある衣料品などは、選べるように複数持参。「ご用聞き」スタイルの利点を利用者にも実感してもらう配慮を心がけている。
  • 今後は、受注・配達のシステムがより円滑にまわるよう体制を整えたうえで、新規参入の店舗を募集して拡大していく。
  • ネットショップの充実と利用促進を図るため、高齢者でもインターネットが利用しやすいサポート体制づくりも計画中。
  • バス、タクシーを利用した、商店街への送迎も検討。以前から開催していた「出張商店街」と連携しながら相互告知をすることで、利用者も買い物スタイルが選べ、購買意欲の向上が見込まれる。
データ
事業者名 富士宮駅前通り商店街振興組合
所在地 静岡県富士宮市中央町
商店街の類型 地域型商店街
組合員数 28店舗
主な業種構成 食品、洋品、雑貨、銀行、飲食、菓子、文房具など
電話 0544-29-7106
URL http://www.fujinomiya-iijan.com
 
富士宮市 人口:130,587人 世帯数:57,543世帯
出典:住民基本台帳(令和3年7月1日)