商店街の街並みをウェブサイト上で忠実に再現。
オンラインで提供する新たな購買体験

名古屋市西区にある円頓寺(えんどうじ)商店街では、新型コロナウイルスの影響により利用者の大幅な減少がみられた。毎月・毎年開催していた各イベントも中止が相次ぎ、その特需を受けられなくなる事態に。そこで円頓寺商店街振興組合では「円頓寺オンライン商店街プロジェクト」を発足。2020年11月、EC機能を搭載したオフィシャルウェブサイト「円頓寺オンライン商店街」を開設した。
サイト上では円頓寺商店街振興組合からのお知らせや各商店の情報を公開しており、商品購入も可能だ。ほかにも、飲食店のテイクアウトに関する情報も紹介する。ウェブサイト立ち上げの背景や取り組みの手応えについて、円頓寺商店街振興組合の理事長である田尾大介さんにお話をうかがった。
背景・課題「日常利用客の減少」という問題が一気に顕在化
名古屋市内でも最も古い商店街のひとつに数えられる円頓寺商店街。界隈には歴史的建造物や旧跡が数多く残る。その一方で、名古屋駅にほど近く、交通利便性が高いことから宅地開発も進んでおり、若い世代が暮らす新設のマンションも増えている。
「新旧の混在」は、円頓寺商店街を歩いていても感じられる。2000年代から若手商店主が中心となってクリエイターや建築家、大学教授とともに、空き家対策をはじめとしたまちづくりに着手。古い建物を有効活用して新たな価値を創出することで、新店舗の出店につなげてきた。その結果として、明治創業の老舗と新しいお店が軒を連ねるという光景も見られるようになった。

イベントの多さも、円頓寺商店街の特徴である。毎月開催の定期イベントに加え、年に数回、大規模イベントも開催。たとえば、毎年7月に円頓寺本町商店街と共同で開催する「円頓寺七夕まつり」は、昭和30年代から続く。毎年約10万人が来場し、期間中は商店街に特需をもたらしていた。
しかし、2020年は新型コロナウイルス感染症の拡大により、イベントの開催中止や規模縮小を余儀なくされた。そのあおりを受けて、商店街の利用者も大幅に減少し売り上げを確保できず、経営が厳しくなるお店も出てきた。円頓寺商店街が長年抱えていた課題が、一気に顕在化したのである。
「イベント開催時こそ多くの人で賑わいますが、『日常使い』のお客さまの数は年々減少傾向にあり、大きな危機感を抱いていました。反面、どんな課題も解決するとなれば必ず『変化』をともないます。変化に対しては、常に抵抗感があり、策を講じたいという思いはずっとあったものの、なかなか動き出せずにいました。そんななかで起きたコロナ禍は、はからずも商店街が一丸となって課題解決に踏み出すきっかけとなったのです」

取組内容情報発信、販売のインフラとして公式ウェブサイトをオープン
課題解決に向け、円頓寺商店街振興組合では「新規顧客への円滑な情報発信」「新しい生活様式に即した販売方法の展開」の実現をめざすことに。Go To 商店街事業に「円頓寺オンライン商店街プロジェクト」を申請した。
あわせて地域で活躍するデザイナー、イラストレーター、システムエンジニアなどの協力を仰ぎ、「円頓寺オンライン商店街プロジェクト」を発足。円頓寺商店街の公式ウェブサイト「円頓寺オンライン商店街」開設に向けて始動した。
「地域の掲示板や回覧板といった昔ながらの発信手段では、情報をすばやく広げられません。重要なのは『知りたい』と思ったときにすぐに情報にたどり着けることです。まずは円頓寺商店街を知ってもらえる、PRの場をオンライン上につくりたいと考えました」

実際に足を運んだときの“楽しみ”を演出
「円頓寺オンライン商店街」の開発に際し、田尾さんが特にこだわったのは、商店街の風景をそのまま再現することだった。店舗の外観はもちろん、店舗同士の距離感も忠実に反映させ、寺社や駐車場、シャッターの下りている空き店舗までも、余すことなくイラストで表した。ユーザーは、横スクロールでこの仮想商店街を移動できる。 「イラストレーターさんからは、『さすがにシャッターが下りた店舗は描かなくてもいいのでは』とも言われました。でも、ありのままを描くことは、一番譲れないポイントでした。現実に訪れることができる“リアルな場”を持っていることが私たちの強み。サイトをきっかけとして、実際に店舗に足を運ぶ人を増やすというのが今回のプロジェクトの目標でもあります。円頓寺商店街をよく知る人にも、そうでない人にも、ありのままをお見せしたいと考えました」



同サイトは、EC機能も備える。商店のイラストをクリックすると、店舗情報とともに商品情報が表示され、オンライン決済で購入が可能だ。たとえば、「喫茶、食堂、民宿。なごのや」はサイトオープンに合わせて、名物のタマゴサンドをモチーフとした「タマゴサンドコレクション」を企画。Tシャツやキャップ、サコッシュなど、さまざまなグッズを販売している。



異なる店の商品をEC機能のカートに入れて、一括で決済できる点も特徴である。これは同商店街振興組合が決済代行を担うことで可能になった。また、商品の受け取り方法については、「宅配」または「実店舗での受け取り」を選択できるようにしている。
このように実店舗への誘導経路を用意するなど、「円頓寺オンライン商店街」には「リアルなお店に足を運んでもらうための仕掛け」がいたるところに散りばめられている。その狙いが当たったのか、サイトオープン後には商店街の歩行者通行量が3%増加したという。今後、さらに機能やサービスを充実させて、オンラインからリアル店舗への流入を増やしていく計画である。

その足掛かりとして、EC機能を利用するには、会員登録を必要とした。会員情報をもとに、ユーザーとこまめなコミュニケーションをとることでつながりを強化し、商店街の新たなファンの創出につなげていく。「コロナ禍が落ち着いてイベントを開催できるようになったら、サイトのお知らせページや会員向けの情報発信サービスを、告知に活用していきたい」と田尾さんは語る。
将来の構想オンラインを“空間”のひとつと捉え、魅力醸成の一助として活用
オープン後も「円頓寺オンライン商店街」は進化を続けている。飲食店の料理紹介のほか、テイクアウトあるいはデリバリーの利用方法をまとめたコンテンツ「TAKE OUT 円頓寺商店街」を新たに公開した。各商店の情報ページに掲載する店主のインタビュー記事も制作中。ライターが各商店を取材し、お店や商品、商店街に対する店主の想いをまとめた記事を順次公開している。

田尾さんは「将来的にはリアルとオンラインを連動させたい」と語る。たとえば、イラストで描かれた「シャッターが下りた店舗」、つまり現実では空き家となっている物件にオンライン上でお店を出店できる仕組みも構想中だという。
「実際の空き家を活用するとなると制約も多く、思うように事が進まず出店を諦める方も少なくありません。でも、ECであれば、もっと気軽に出店できます。円頓寺商店街が好きでお店を開きたいけど、実店舗は難しい。そんな人が『円頓寺オンライン商店街』で簡単に出店できるようにしていきたいですね」
イベント開催時などは、出店エリアを「リアル」と「オンライン」のどちらか自由に選べるようにすることも考えている。さらに、ECの出店希望が多数あれば、現実では不可能な「アーケードの上」に出店してもらうというようなことも構想中だという。イラストではどのように表現されるのか、気になるところだ。
最後に、円頓寺商店街の魅力についてうかがったところ、「古き良き文化が息づき、そこに『新しさ』が加わることで化学変化が起きている」との答えが返ってきた。そして田尾さんは「リアルとオンラインを切り離すのではなく、地続きで捉えて活用していきたい」と続ける。オンラインという新たなフィールドを活用し、円頓寺商店街ならではといえる「面白さ」をこれからも生み出していく。

- 商店街の魅力発信の場としてオフィシャルウェブサイト「円頓寺オンライン商店街」をオープン。EC機能も搭載し、商店の売り上げアップにも貢献。会員情報をもとに、ユーザーとこまめなコミュニケーションをとることでつながりを強化し、商店街の新たなファンの創出につなげていく。
- 日常的に足を運んでいる来街者により親しみを持ってもらえるよう、商店街の風景をイラストで忠実に再現。イラストと実際の商店街の風景を見比べて楽しむこともできる。
- 情報発信のツールとして活用したことで、来街者数の呼び込みに成功。歩行者通行量は取り組み前と比較して約3%増加した。
- コロナ禍で変容した生活様式に対応するためにテイクアウト/デリバリー事業も展開。各店の商品を一覧で掲載することで、ユーザビリティを高めている。
- サイトオープン後も継続して刷新中。現在は店主のインタビュー記事を制作中で、順次掲載を進めている。店内や店主の写真を掲載するなど、より「顔の見えるつくり」となりつつある。
事業者名 | 円頓寺商店街振興組合 |
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所在地 | 愛知県名古屋市西区那古野 |
商店街の類型 | 複合型 |
組合員数 | 30名 |
主な業種構成 | 小売、飲食、宿泊、娯楽サービス、その他サービス |
電話 | 052-551-6800 |
URL | https://endojishotengai.com/home.html |
名古屋市西区 | 人口:150,896人 世帯数:74,336世帯 出典:名古屋市HP 推計人口 (令和3年6月1日) |